「ねぇ、ラビ。僕が明日死ぬって言ったらどうします?」
「・・・何さ、いきなり。」
「なんとなく、どうするか気になったんですよ。」
「・・・」
『なんとなく』そんな言葉で表せないような表情で、アレンは笑う。

「死なせないよ。」
「・・・死ぬって分かってるのに?」
「うん、死なせない」
「・・・ラビって、ちょっと馬鹿でしょ?」
「えー。」
「明日死ぬって言ってるんだよ?絶対だよ?」
「でも」

 

可愛いアレン。
君が何を期待しているのか僕には分からない。
分からないからこそ、今の自分の気持ちを飾らないまま言おうとしてるんだよ。
「・・・俺、アレン死んだら、嫌だもん。だから、死なせない。」

 

 

僕には、君が欲しい言葉なんて分からない。所詮人間の心は十人十色。
でも、だからこそ、飾らない言葉がどれだけ君の心を動かすのか、知ってるんだ。
「我儘な子供。」
「俺、子供でいいよ。アレンが居てくれるなら。」
「・・・僕、手のかかる子供はいりませんよ?」
「えー、貰ってくれないの?」
「貰って欲しいですか?」
「アレンが貰ってくれなきゃおしかけよっかなぁ。」

 

 

俺の言葉は全て本当。少なくとも、君に向ける僕の言葉は、僕の心の中の言葉。
忘れないで、アレン。俺はアレンを愛しているんだよ?

 

 

 

ああ、だから、泣かないで、アレン。

 

 

俺はお前を愛してる。
お前は俺を愛してる。

当然だ。当然だよね。

いつでも傍に居たがった。
いつでも傍に居て欲しかった。

 

 

それでもいつか、別れは来るんだよ、アレン。
ああ、泣かないで、アレン。
泣きたいのはこっちのほうさ。

 

 

 

身体にぶつかる塊は、『雨』と呼ばれるものの固体だだった。
青い、青い空。雲すら見つけることの困難な空。
君はいつだか言っていたね。
『空と大地は交わることはないと思ってたけど・・・ああ、あんなに綺麗に、繋がってる。』

 

 

教団の高台から望むその先。空の色と大地の色。綺麗な綺麗な薄いスカイブルー。

だけど、

君が綺麗だといった空も大地も、今は余計な『線』が入っている。
晴れているのに、降る雨粒。キラキラと光るその雫。君に見せたいと、思った。

 

 

 

『まるで、泣いてるみたいだ』
誰が言った言葉だろう。もしかすれば俺が言った言葉だっただろうか。思い出せなかった。
『晴れてるのに、泣いてるみたい。』
ああ、なら、これは誰の涙だと言うの?


仲間の?
俺の?
・・・アレンの?
誰の?

 

 

 

 

「・・・誰だっていい」

 

 

 

もしこれが君の涙なら、ああこんなにも綺麗だったね。
それでも君に涙は似合わない。
どうか晴れてくれ、笑ってくれ。君が好きだといった青空を俺に見せてくれ。

 

 

 

 

黒の墓標の前。書かれた名前に、僕は今だ、夢が醒めない。
「逃げるなよ、ラビ」
「俺が何から逃げてるんさ、ユウ。」
「逃げてるじゃねぇか。」
黒い大理石だとか言う墓標の前、俺を夢から醒まそうと、今日も彼等は俺を起こしに来る。
『逃げるな』と、『好い加減にしろ』と、何を言ってるのか俺には理解できなかった。
いや、したくなかったのだろう。

 

 

アレンが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死んだなんて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まるで本を読んでいる感覚だった。
どこかその物語に熱中するのと同時に、醒めていく己の人格。
主観的に進むストーリの中、俺の存在だけが客観的に・・・。
何を言われても、何を見せられても、俺は夢から醒める感覚はまだない。
彼等の語る物語の結末は、何時だって同じ。

彼は『アレンは居ない』のだと、俺に言い聞かせるように。
でも、それで俺の夢が醒めるわけじゃなかった。
俺の脳は理解を望んでなど居ないのだろう。
何を言われても、何を言わされても・・・記憶するだけで、理解など程遠い行為。

 

 

 

 

 

雨が上がった。
突如として、夢は終わりを告げた。
まるで、雨が上がると同時に、俺は『理解』した。

 

 

 

ああ、そうか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アレン、死んだんだ。」

 

 

 

どこか呆気無く。
そう告げたら、彼等は表情を曇らせていた。

 

 

 

「・・・ラビ・・貴方・・・。」
「・・・知ってたんさ。」
「・・・・・・」
「頭の中では、アレンが死んだって、分かってた。」
「それでも・・・」
「『解って』はいなかった。」

 

正確には、判りたくなかったんだろう。
やはり俺は未熟だった。我が師からそう罵られても仕方なかっただろう。
それでも、判りたくなど、ないのだ。
貴方がいないだなんて。

 

 

 

 

あの雨は、一体誰の涙だったんだろう。
「きっとアレンのだ。」
「どうして?」
「あの雨が上がった途端、俺は理解した。あいつが居ないことを知らされて。」
「・・・だから、アレン君だって?」
「うん。何時までもうだつの上がらない俺を叱りに来たんさ。」

 

あの日、初めて空が涙を流した日、俺の部屋で隣で寝ていたはずの彼は消えていた。
朝冷えのする廊下を探し回って、彼を見つけた時、彼は既に死んでいた。
自室で、自分のベッドの上で、聖母マリアのように笑って逝った君。

『僕が明日死ぬって言ったらどうします?』

そんなことを前夜言っていた彼は、そうなることを知っていたんだろう。
どこか聖人臭いその顔に、俺は怒りを覚えたくらいだ。
知っていて、彼が告げた最後の言葉が、これなのか。と。
どうして言ってくれなかったのだ、と。
君は、俺に何をしたかったのだ。と・・・。

 

 

 

「・・・リナリー、眼、閉じてもらえる?」
黒い墓標の前、書かれた君の名前を指でなぞる。
彼女は、全てを悟ったかのように、何も言わず、静かに目を閉じた。

 

バシャリ

 

手に持っていた、バケツの中身、白いペンキを彼の墓標に投げかける。
誰よりも白の似合い君。俺よりも先に、俺に無断で逝った罪。
その白を背負うことで、消して忘れないように・・・。

 

 

「アレン、当分、ここにはこれなくなる。」
「・・・ラビ?」
「俺は忙しい・・・これから、弟子を見つけなきゃ」

君は怒るだろう、今からするだろう未来を知ったら。
それでも、君は、しょうがないと言って笑うことだろう。

「・・・全て終わったら、迎えに来るさ、アレン。」
「ラビ、何を言ってるの?」
「・・・俺と、アレンの秘密。」
・・・だから、リナリー・・・

 

 

 

 

アレンの前で泣いたことは、俺達と、リナリーとの秘密だ。

 

 

「 A m e n . 」

END

(08.12.07)