朝帰り、見つけた小さな小さな手紙
『おはよう、』
宛名の無いその手紙にはたった一言だけ書かれていた。
然し何が気に入らなかったのか無造作にぐしゃぐしゃと文字を塗り潰された一枚の紙。
掌サイズの小さくて簡素な紙の端っこに書かれた言葉に、知らず小さく笑みを零した。
重なりあうようにして置かれた紙の束。
一枚捲ってみた。
『おはよう、お疲れ様。任務 』
字を間違えたのか黒い墨がやる気の無い蚯蚓のように線を引いていた。
また一枚捲ってみる。
『任務入ったから、家開ける。』
今度は挨拶と労いの文字が見当たらない。
然し内容は伝わった。
また一枚。
『悪い、任務が入った』
謝罪の言葉が付け足されたらしく、少し崩れた文字が書かれていた。
まるで取って付けたようだ。
更に一枚。
『 』
文字ではなく、然し何を書いたらいいのか判らないらしく、点が一つ。
筆から落ちた墨だと推測した。
慌てていたのかぐしゃりと端が折れ曲がっている。
『夜には、終わる』
何がだ、と突っ込みそうになって、然しくつくつと笑う唇を止められそうにはなかった。
『おはよう、』
『お疲れ様』
『ご飯、』
それから何枚か、同じように書いては塗り潰している。
その様をあまりにも容易に思い浮かべてしまった。
なんてらしいんだろうと思った感想は笑い声として表に出てくる。
任務に出る前のあいつの様子。
思い悩みながら、どんな顔でこれらを書いては棄てようとしたんだろう。
然し、結局棄てることさえ叶わずこうして机の中にしまったのか。
キッチンのコルクボードに張られた一枚と見比べて、やはりその様を思い浮かべてしまった。
仕事が明けて朝帰りとなってしまった自分と擦れ違ってしまうことがそれほど堪えるのか、
可愛い奴、と呟いた言葉は生憎誰にも聞かれること無く空気に消えていく。
『いってきます。』
結局これだけか、用意された朝食の後片付けを終わらせ、
半日後の未来を想像し口角をくつりと吊り上げた。
『お帰り。』
帰ってきたなら絶対に言ってやろう、
ついでにしっかりと抱きしめてそのまま眠りにつくのもいいだろう。
強く心に決め、欠伸を噛み締めつつ寝室へと足を進めた。
おかえり、さぁ飯を食べようぜ。そのあと、ゆっくり二人で眠ろう。
ただ二人、眠らずに横になってるだけでもいいかもしれねぇな。
ぽつりぽつりと言葉を少しずつ交わしながら、昨日のこと、今日のことを話そう。
話したいことが沢山あるんだ。だから、早く帰って来いよ。