せめてボクが居る時だけは安らかに眠っておくれ
淡い灯りを窓の外から確認し、目を細めた。
長く夜を行動していた視覚機能にはあまりにも刺激が強すぎる。
眼を細めても入ってくる陽光に俺は暗幕で光を遮断した。
寝入るにはあまりにも明るすぎるが故に、だ。
室内温度が適温に達した途端、この男は自分を抱え込みながら布団の中へ潜り込んでしまった。
この男は自分を腕の中に抱き寄せて眠るのが好きだった。
好きだ、と言うにはあまりにも語弊があっただろう。
それはもう完全な癖のようなもの。
人間は無意識の内に安寧を求めるために行う行為を、癖と言う。
意識の無い行動ほど厄介な者はない。
この男の癖の最たるものがこれだ。
安眠を好むこの男が、人との接触を拒むこの男が、俺を抱き枕にして行う癖。
日常生活、どこであろうと欠伸をかみ殺しつつ横になっているにもかかわらず、だ。
つまり、日頃昼寝と称する行動内において、この男は熟睡などしていないことになる。
尤も、忍びとして室外で熟睡できるものなら見てみたい気もするが。
然し、この男はそれが極端すぎる。
たとえ昼寝をしているように見えても、気配には獣以上に敏感だった。
ただ気付いたとしても昼寝をしているように見せる。
危険が無ければそのまま放置、そうでなければ警戒。
ある意味熟練されたその動作に俺は舌を巻いたくらいだ。
その男が、今こうして自分を抱きよせたまま微動だにしない。
長らく寝付けなかったのだろうか。
この男は温もりを確認すると早々に意識を深く沈ませて行った。
握り締めた手に安堵するように、普段深く刻まれた眉間の皺が溶けていく。
身動きが出来なくなり俺はそのまま男の隣に体を横にしていた。
終わらせた任務の報告書は影分身に任せるとしても、だ。
任務後に訪れるこの焦燥のような興奮や飢餓感はそう易々と静まるものじゃない。
だからと言ってこの握り込まれた手を無理矢理剥がすことはできない。
何故って、今の俺に手加減ができるとは思えないからだ。
惨殺任務の後遺症のようなその飢餓感は血を求めて病まない。
浅ましいまでの獣の食欲が表に姿を現し、狂気と血臭と死臭を纏った姿は醜く歪む。
そんな姿を俺は、この男に見せたいとは微塵も思っていないのだ。
漸く微睡み始めた意識をゆらりと首を振るって覚醒させる。
まだ寝るわけにはいかない。
体を微かに動かした途端、服と掛け布団の摩擦音が静かに響いた。
男の胸のあたりで固定された上体をなんとかずらし男と向き合う。
幾ら底なしの頭脳と言われようともまだ未発達な人の身体。
ここ2,3日書類整理に負われてまともな睡眠など期待できなかったはず。
加えてこの男の脳は余りにも人間離れした処理能力を持っていた。
勿論、それがなんの代償も無し、と言うわけも無く、必要なのは養分と時間。
活動を促すための糖分。
情報を処理するための睡眠。
そのどちらが不足しても身体に害をなすのは最早言わなくても判るだろう。
だからこそなのか、それ故になのかこの男は惰眠をこよなく愛しているのを知っている。
なのに、だ。
俺が任務で不在にする間、この男はいつも夜通し酒を肴に何かに想いを馳せていた。
酷使した脳細胞を更に休ませる時間も与えず起き続ける。
流石のこの男も、この時ばかりは無防備に近い。
気配に聡いのは変わらないにしても俺からすれば隙だらけだ。
そうなれば、任務をで気配を消し続けている状態の俺は簡単に近づくことができるくらいだ。
いくら止めろと正しても、男は聞く耳を持たない。
気配を感じ、視界に納めた後は事切れた人形のように崩れ落ちるくせに。
謂いたいことも願いも判る。
それでもどうか無茶をしないでほしい。
その姿を見るたびにいつもそう思わされる。
そう思えるほど自分がこの男に信頼を寄せているのだと思えば急に笑いが込み上げてきた。
刷り込みされた獣じゃあるまし、自嘲するようにくつくつと喉を鳴らした。
途端、擽ったそうに男は身体を丸めてくる。
腰と肩に回されている腕には力を込め、更に引き寄せられた。
殆ど距離のない状態だ。
顔を見合わせたこの状態では、顔と顔の至近距離の位置に思わず息を呑む。
落ち着いたのか無駄に血色の良い頬や唇。
薄皮一枚向こうにあるのは獣の食欲を掻き立てる真っ赤な血。
いつの間にか治まっていた飢餓感がふるりと沸き立つような感覚に、俺は顔を顰めた。
止めろ、止めてくれ。
この男を殺したくはないのだ。
この男が幸せであるなら良い。
そうは思っても、この最たる願いよりも優先することではない。
ただ生きていること、それがなによりの俺の願いだった。
たとえ隣に俺がいなくても、
たとえ俺を忘却の彷徨に追い遣って居たとしても、
それでも生きているのならそれだけでいい。
これが俺のたった一つ許された我儘。
腕を伸ばし、頬を撫でる。
呼吸を繰り返す薄く開いた唇へと触れた。
親指の腹で一撫で、やはりくすぐったいのか身を捩る。
ならばと痛みを与えぬ様微かに触れるように額を合わせた。
常時より幾分か温度が高いのは、知恵熱と呼ばれる症状からだろう。
今この男の頭の中では常人の数十倍の速さで情報が処理されていることだろう。
外世が騒がしくなってきた。
知らぬ間に時が急速に進んでいたのだろう。
太陽の高さから見て、人々が活動する時間。
嗚呼、そろそろ本格的に寝なければ夜の任務に差支えがでるだろう。
昼間は影に任せるとしても不眠不休は俺だってきついのだ。
再びまどろみ始めた意識を、今度は抑えることなくただ従う。
時間が巡り、また夜に出逢えるまで、意識も恋情も切望も、今を持ち得る全てを狭間の奥底に隠した。
クスクスクス、何がそんなに可笑しいのかしら?いや、だってな?あれ、見てみろって。あら、仲が良いわね。
だろ?ガキの頃からあの癖はちっとも変わりゃしねぇな。あれが一番落ち着くのかしら。二人とも可愛い顔。
いや、坊主はともかく、あいつはぁ。母親から見れば可愛いわよ?そうかぁ?貴方には判らないわ。
あの子ったら、昔からお気に入りを抱えて寝てるのよ?小さい頃は野良猫だったかしら。ほら、三毛猫。
なに!?写真ねーのかよ?母親の特権ってやつよ。勿体なくて見せられないわ。
03.宵の宴の続きのようなもの。
ママさんとパパさんに見られた寝顔。
勿論、内緒でアルバム行きです。
ナルト独白シリアスに見せて、最後ほのぼので落としました。