「よっしゃー部活!!!竹巳、行こうぜ。」
「誠二、お前五月蝿い。」
「ひでぇ、竹巳!!」
「元気だね。誠二。」
「〜、部活見に来ない?」
「行かない。」
「えー、どーして???」
「行ってもつまらないから行かない。」
授業が終わると同時に駆け寄ってくる誠二に、竹巳ともどもは呆れたように笑った。
「来ないの?」
「何?竹巳まで来てほしいと?」
「だって、勝負したいし。負けっ放しは趣味じゃない。」
鞄に道具をしまい終えた竹巳がにっこりと笑って、こないの?と脅してくる。分かっててやってるから性質が悪いと言うのに。
その様子にはふぅと隠すことなく溜息をついた。誠二は準備しなくていいのか、とか色々思ったが別に自分に害がなければそれは放っといて良い。問題は竹巳だ。誠二よりも厄介なのは間違いなく竹巳だ。何より、こいつの性格は間違うことなく黒だ。ついでに言うなら誠二は灰色。渋沢は黒だ。
「私が学校でサッカーやらないのは知ってるでしょ?」
「「(ついでに口調がまるっきり違うことも知ってます。)」」
「(悪かったな猫被ってて)だから君達が傍にいること自体あまりよく思ってないんだけど?」
「えーーー、」
「ただの藤代誠二と笠井竹巳だったら良いんだけどさ、サッカー部のとなると色々面倒なの。」
「それは俺達と離れたいってこと?」
「そこまで言ってないって。だから、サッカー部の見学を薦めてこなければOK。」
「でもなぁ。」
「でもま、久々に見てこようかな。三軍。」
「え、三軍なの?」
「どーして??」
「面白い奴見つけたから。」
「面白い奴?誰???」
誠二が興味深そうに詰め寄ってくる。それには「秘密」とにぃっと笑うと諦め切れなさそうな誠二が不満顔になる。
「それよりもサッカー部一軍レギュラー。」
「「え?」」
「さっさと部活に逝け。」
竹巳には利かないから誠二単体に送ると、案の定おびえた様子で竹巳を引っ張って走り去った。どうしてこうも分かりきった行動のするのか・・・。竹巳も竹巳で仕方が無いと言わんばかりにあきらめた様子だったから、最初から期待してなかったか、ただ誠二の行動に乗っただけなのか。は誰もいなくなった教室で、一人盛大に息を吐いた。溜息だとかそういう類の呼吸ではなく、張り詰めたものを解放すように。
「・・・・・・」
トンと机の上に頭を乗せる。遠くで部活動に励む生徒の声が朧げに聞こえてくる。それに耳を塞ぎたい気分だった。
誠二と竹巳は嫌いじゃない。友人としては最高だと思う。自分の性格を分かってるし、何より懐いてきてくれることに嫌悪する奴なんていない。男だとか女だとかそういった感情はどこかにあるだろうけど今はまだ友人のままだし、お互いそれを変えるつもりは無いように見える。だけどそうじゃない。そうじゃないんだ。
友人としての彼らを嫌ってなど居ない。だけどどこか突き放すような言い方をしてしまうのはきっと、彼らがサッカー部部員だからだ。もちろんそれはサッカー部部員の人気の高さとかじゃなく、サッカーをする者だからと言う意味で・・・それがには正直きつかった。別にサッカーをするやつが嫌いなんじゃない。何より自分もするんだから嫌いになるわけが無い。そうじゃない。
は右膝を触る。肌色のサポーターの下、指の感触だけで分かる傷跡。指の腹に伝わる傷の感触が、は好きじゃない。こんなたった数センチのものが、自分から大切なものを奪ったかと思うと、憎くて仕方が無い。ただただ憎い。
ああ、サッカーがしたい。
どれだけ思っただろう。どれだけ願ったか。もう分からない。数えていない。
この傷跡は、自分の足を地面に縫い付ける幾本もの鎖。外れない頑丈な枷。
「俺は、サッカーがしたかっただけなのに・・・」
この未来を選んだのは自分。だから自分を責められるのもまた、自分ただ一人。こうなることが眼に見えていないほど自分はあの時子供だったんだろう。今なら姉の言ったことが異様なまでによく理解できた。
| 『辛いわよ?』 |
分かってるよ、分かったよ、その意味を。 |
| 『泣いても良いんだからね』 |
別に泣きたくないわけじゃないよ。 |
| 『貴女は独りじゃないのよ』 |
独りの方が、楽だったよ。 |
「あれ?」
奇妙な違和感だ。隣にいた渋沢が聞き返してくる。
「どうした?」
「・・・・・・渋沢、あいつがいない。」
「あいつ?」
思わず猫を被ることさえ出来ないほど、は動揺していた。どうしていないのか、と。
「風祭って言う、3軍の選手、どうした?」
「風祭?・・・ああ、確かに、居ないな。」
「・・・・・・どうしていない。」
「が風祭を知ってるとは思わなかったけどな。」
「・・・・・・」
彼はにとって、残された希望のようなものだった。一方的な英雄視かもしれない。だけどそれだけでは嬉しかった。どうして彼なのか、にも分からなかった。ただ彼が、彼のするサッカーが楽しくて仕方なかった。今すぐ絡みつく枷を引きちぎって、彼とともにサッカーをしたくなるほど、は彼のことを眼にかけていた。なのに、
「居ない」
どうしていない?
休み?いいや違う。彼がサッカーを出来る機会をつぶすわけが無い。なんとなくそう思う。
一軍の練習場では誠二と竹巳がサッカーボールの取り合いをしていた。FWとDF。お互いのポジション練習には一番良い。二人がサッカーが好きなのは分かってる。じゃなきゃあんなに楽しそうに出来ないだろう。隣にいる渋沢だって、楽しそうにサッカーをする。は渋沢を邪険にはするがそれを本気で振り払おうとはしない。の近しいものの基準はやはりサッカーなのだと分かると思わず笑いたくなる。矛盾した感情だ。サッカー部の彼らを嫌っているのに、サッカーをする彼らと共に居る。理由が理由だけに、笑いたくなるようなことだが、それでもにとっては大切なことだ。
一度だけ聴かれたことがある。
『どうしてサッカー部を嫌うのか』、と。
別にサッカー部が嫌いなわけじゃない。
『サッカー部の練習をみにこようとしないのは?』
、ただ、サッカーをしているところを見たくないだけ。
『どうして?』
・・・・・・辛いから。
彼らのサッカーを見ていると、自分が出来ないことがリアルに伝わってくる。どれだけ自分も混ざろうとしても限界がある。女だからじゃなく、出来ないから。彼らは女である自分がサッカーをしようとも何にも思わないでいてくれた。だから彼らにはかなり感謝している。だけど、出来ない。やりたくて、なのに出来ないから、見ているのが辛い。
「?」
「今日は帰る。誠二と竹巳にがんばれって伝えておいて。」
「ああ、気をつけて。」
俺 は ま た 逃 げ 続 け る の か
(08.11.02)