偶然だった。目の端で探す程度だったとは言え彼をそこで見つけたのは。日課の軽いジョギングをしていると武蔵森の制服じゃない彼の姿が写ったのだ。何故?だとかそんなことはどうでも良い。懸命にボールを蹴る姿に体が動くのを感じた。気付けば自ら声をかけていた。
「ねぇ。」
「っ、あ・・・」
「何してるの?」
熱中していたのか声をかけた瞬間、大きく身体を跳ねさせ勢いよく振り返ってくる。呆けたようにぽかんと口を開いてこちらを凝視した風祭将の姿。間抜けだな、と限りなく小さく呟いた声は聞こえていないようだ。
「えっと」
「サッカー?好きなのか?」
「、ぁ、ハイ。」
見知らぬ奴に声を掛けられたのに戸惑っているのか、とは当たりをつけてじっと彼の足元に転がるサッカーボールに目をやる。きっと今の彼に自分に声をかけた人物が『』だとは気付いてもいないんだろう。誠二や竹巳にも言われることだが校内と校外とじゃまるっきり印象が違うとよく言われる。この格好も意図的ではあるんだけど。
「君、武蔵森の風祭将だよな。どうして制服が違うんだ?」
「え、君も、武蔵森?」
「ああ。」
「その、転校して」
「サッカー部でサッカーが出来ないから?逃げたのか?」
「違う!! 、ぁっごめ」
「何が違うんだ?別の学校に逃げたんだろ?」
「違う・・・サッカーがしたかったんだ。武蔵森じゃサッカー出来ないから。」
3軍の主な練習内容は走り込みとリフティング、あとは雑用ばかり。その多さにサッカー部を去っていく奴らはいたけど、彼はサッカーをするために転校までした。口元に浮かべるのは安堵の笑み。だけど・・・
「でも武蔵森から逃げたんだろ?それは認めなきゃな。」
「っ、」
「サッカー部には?つーか、学校どこ?」
「さ、桜上水、 です」
「桜上水?(シゲがいるとこじゃん)転校初日に武蔵森からきたレギュラーだと思われて、実は顧問の勘違いでサッカー部にいられなくなった?」
「えっ・・・」
「いや、桜上水に知り合いいるからさ。そんな噂を聞いたような・・・」
嘘だけど。シゲ・・・佐藤成樹から聞いたサッカー部顧問の香取先生だったか?はかなりのおっちょこちょいでとか色々聞いている。しかも担任らしいし。予想はしていたけどそれがまさか大当たりだとは。
「コーチ、してやろうか?」
「え?」
はっきり言って彼は根性はあっても技術がまるでない。武蔵森にいたときから、彼はその身長も相まってか全体的に低レベル。それでもが彼にひかれたのは、その感情一点だっただろう。『サッカーが好き』だというサッカーをするに当たって尤も大切だと思う動機。
「ここで、一人練習してても埒明かないと思うんだよな、俺。」
「、その・・・」
「サッカー部、戻りたいんだろ?」
「、はい」
「じゃ、決まりだな。」
けど、と戸惑うように言葉を濁す風祭。素直に受けとけばいいのに、と呆れるけれど、正直なのは恐らくこいつの性格そのもの。
「俺はサッカー部じゃないからさ、別に他校の奴に干渉してもOKだろ。」
「え、違うんですか!?」
「ああ、まぁ、誠二や竹巳とは知り合いだけどな。つーか、まだ分かんない?」
同じ学年だし竹巳から聞いてるかと思ったんだけど、と帽子の影から目を細めて笑うに、相変わらず風祭は困惑している。確かにの格好は少年そのもの。上下を黒主体のウィンドブレーカーで身を包み、ナイキの帽子で顔や髪の長さを隠す。一見すれば細身の男子中学生か。
「学校だと制服だし印象も違うか。つーか知ってるのか?俺だよ、『 』知ってる?」
「 、え!?さん?あの!!?」
一瞬どころか数秒固まった風祭に失礼な、と一言呟きは帽子を脱ぐ。その間から長めの髪が滑り落ち黒髪が元の位置まで戻った。手首にかけていた髪ゴムでひとくくりに結ってしまうと漸く気付いたのか目を見開いてやっぱり硬直した。
「、さん?」
「いよっ」
「嘘、・・・本当に?」
「ああ、」
「だって、性格が・・・全然。」
「猫被ってるから。」
「だって、運動できないって・・・」
「良い感じに勘違いしてくれてんなぁ。」
「サッカー!?」
「女がサッカーやって悪いか?」
「ぜ、全然!!」
風祭は面白いように素直な反応を返してくれる。ここまで素直だとからかいがあるだけに相当面白い。誠二と意気投合しそうだな、と苦笑しは帽子を被る。
「俺さ、訳あって15分以上運動は出来ないんだけどさ。それでも良ければコーチしてやるよ?腕は渋沢とか誠二も保障済み。」
「本当に、良いんですか?だってさん、サッカー部の方と仲良いし」
「あ、で良いぜ。俺も将って呼ぶから。サッカー部にそこまでの義理ねーし。」
「で、でも。」
「んじゃ、コーチってのが文句あるなら、俺の相手しろよ。それならいいだろ?」
頑固だな、とは仕方なく提案を少し変えた。それに風祭はそれならと頷く。
「よ、よろしくお願いします。さん」
「さんもいらないんだけどなぁ。まぁ、いいか。」
宜しく将。満面の笑みでが微笑えんだ。