タ ブ レ ッ ト
- 詩 想 論 -
「ティキ、俺はね。人間なんて、大嫌いなんだよ。」
「そうだな。」
「だから、自分も、大嫌いなんさ。」
俺は、病的なほど白い部屋の住人の、病的なほど、覇気の無い声と、無感動な笑みをただただ眺めていた。
自分ですらも、ぞっとするほど冷たい笑みは、全てを憎む、魔性の人間。
「人間は弱い。」
「何も守れやしねぇからな。」
「人間は莫迦だ。」
「過去を顧みることも無いからな。」
「人間は愚かさ。」
「・・・」
「自分達が一番だと信じきる。何も出来やしないのに。人間は捕獲者だけど、捕食者じゃないんさ。」
住人は、手元に飛んできたゴーレム――ティーズ――をその手に留まらせる。
「自分達が、狩られる側だってことに何時までも気付かない。盲目さ。人間は。」
グシャリと、彼は、ティーズを握りつぶす。
開いた手元から、バラバラになった蝶の体が地面に落ちる。
「愚かで、傲慢で、それで居て、我儘だ。全てが欲しいと嘆き、何も要らないと喜ぶ。矛盾した下等生物。」
「お前もだろ?」
「・・・」
完全に壊れてしまっていたティーズの塊が動き出す。
流石は千年公の造ったゴーレム。
人間の力に潰されてもモノともしない。
「ああ、ごめん。ティーズ。怒るなさ。」
「いきなり分けも無く潰されたら、こいつらだって怒るだろ。」
呆れながら、煙草を咥える。
元の形に戻ったティーズは彼の周りを飛び回っていた。
「ティキ。俺はね。俺も、下等生物なんさ。そんな自分が許せねぇ。どうせなら、お前と一緒に生まれたかったよ。」
「・・・ラビ・・・。」
クスクスと、彼、ラビは口元を笑わせる。
綺麗な細く長い指は俺の内ポケットの中に伸ばされ、引き出す。
その手には、今現在自分が吸っていた煙草の箱とライターが握られている。
「未成年。体に悪いぜ。」
「これ吸えば死ねる?なら喜んで吸うさ。」
「ああ、分かった。もう何も言わねぇよ。」
手馴れた手付きで箱の中から煙草を一本口に咥えて引き出す。
カチッとライターで火を点け、肺一杯に吸い込んだ独特の煙をゆっくりと吐き出す。
「始めたのは最近なくせして、俺よりヘビーとはな。」
「元々素質あったんじゃね?」
「男たらしのか?」
「人間たらしにしといて。」
「怖ぇ奴。」
「同感。」
先程より幾分か安定して来ているのは、やはり煙草のお陰なのか。
まるでドラッグだな。と思いつつ、それを取り上げようとは思わない。
「千年伯爵はなんて?」
「当分の間、お前の世話しろってさ。」
「それは嬉しいさ。当分ティッキと一緒v」
「遠慮願いたいね。」
「つれない言葉。俺とお前の仲だろ?」
綺麗な碧い金色の目が直ぐ目の前まで来る。
「ロードがお前に会いたがってたぜ、少年。」
「あいつにとって、俺は好いマゾヒストだからだろ。そう演じてるだけだけど。」
「それでもお前は遊びがいがあるんだろ。」
「まぁ、俺もあいつは好きさね。」
ラビは俺の咥えていた煙草と、自分で咥えていた煙草をどちらも手に取ると握り潰してしまう。
先程のティーズのように。
勿論火は点いたままだし、それなりの長さも残っていたものだ。
「・・・ッ・・・」
ちゅ。
ラビは俺に唇を合わせ、音を立てて離れる。
「お礼。」
「そら、どーも。」
「いえいえ。」
ラビは新しい煙草に火を点け直し、そのまま立ち上がる。
「どこ行く気だ?」
「ちょっと散歩。あと憂さ晴らし。AKUMA2,3匹壊しても文句ねぇだろ?」
「俺はねぇけど、千年公はどうだかな。」
「伯爵は俺のすること何も言わねぇさ。」
「大した自身だな、ラビ。」
「まっね。」
ラビは手を振りながら、白い部屋を出て行く。
残ったのは、ラビの自室である白い部屋とはミスマッチな俺と、ティーズ。
そして煙草の残り香。
口の中に、吸いなれた、『ARK ROYAL』のバニラ味が残った。
ラビは、契約と称しキスをする。
その際、舌は入れない。
だ唇と唇を合わせる儀式のようなキス。
それ以上のことを、した者は居ない。
ラビは、人に懐かない。例え、始終共に居る、俺やロードにも。
懐いた振りをする。そして最も望むべき『人』へと姿を変える。
ラビは、人を愛さない。彼も人で在るが故に、彼は、人を殺したがっていた。
例え、それが自分を愛している人間だったとしても。彼は迷いもなく殺すだろう。
彼は、誰も愛さない。自分すらも、愛してなど居ない。ただの人形だと称している。
孤独のみを学ぶ精度の低いオートマ人形だと、自分で名乗っていた。
彼は、この先人間で在ることを忘れないだろう。最も忌むべき相手だからこそ、
何時もどんな時も、彼は、自分を壊したがっていた。
「けど、お前は人間なんだよ、ラビ。」
彼は、人の忌むべき場所を知り尽くしている。だからこそ、彼は人を愛さない。
彼は人に愛されることもしない。彼は、人と共に居ることすらも、断固として拒否するだろう。
彼は忘れる事の無い。全てを覚え、全てを記憶し、記録し、いつも人を思い出し、苦しむ。
彼は、人にされた仕打ちを忘れることはないだろう。彼が死なない限り。
けれど、彼は、死を恐れている。自分を嫌っているにも関わらず、自分を壊したがっているにも関わらず、
それでも、死と生を恐れる。その理由は、今だ不明。
「お前は、今まで逢った人間の中で、一番人間らしいんだよ。」
知っている。
知っているさ。
知り過ぎている。
だからこそ、俺は自分を壊すんだ。
彼はそう告げてふらりと消える。
そして、血塗れで見つかる。
けれどどんな酷い怪我を身に受けても、不思議と彼は生き残る。
彼は、神に愛されていた。
彼は人を愛さないし、自分も愛さない。
けれど神にだけは愛されていた。
彼はその愛を、決して振り払おうともしない。
無意味だと知っているからだろう。
我等が長・千年公は、こう言った。
『彼は神に愛されているが故に、神を裏切ったのデス。』と。
例えそれが偽りの神だとしても、彼はその神を裏切ったのだ。そして二度と戻ることは無い。
我が妹・ロードは、こう告げた。
『ラビは、孤独を愛しているからだよね。』と。
彼が愛する者は孤独のみ。それ以外は何も、愛さない。それ以外を求めない。それ以外を必要としない。
我自身・ティキは、こう思った。
『寧ろ、あいつは、自分が壊れるのが怖いのではないのか。』と。
何者すらも、受け入れない彼は、自ら命を絶つことをしないし、俺らに『願う』こともないのだから。