タ ブ レ ッ ト
- 拾 得 物 -

 

 

 

「あー、ムカつく。」

俺は人間が嫌いだ。
誰かに縋ることしか出来ないから。
誰かに守られるしか能が無いから。
自分の醜い部分を見ぬ振りを決め込むから。
とにかく俺は、嫌いなんだ。人間が。人間である自分が。


町を歩けば、それこそ見たくも無い人間を見ることになる。
それでも、部屋にじっとはしてられない。
もともと閉じこもるのは余り好きではない。
本を読むのは好きだが、だからと言って何日も閉じ込められるのを嫌う。
何より体を動かせば、本を読むとき頭に入る効率はあがる。
散歩はあまり好きではないが、それ以上に、本を読めなくなるのはもっと嫌なのだ。


「見っけ。」
およそ数十m先にいる男の姿が眼に入る。
外見は一般人と変わらないが、俺には分かる。
アレはAKUMAだ。
どうしたってムシャクシャするときは、戦闘に限る。
AKUMAは俺には無抵抗だ。
しかもアレはレベル2.それなりにタフだし遊べるだろう。



「おい。」
「ッ・・・ラビ様!!!」
「面、貸して?」

擦れ違う寸前、周りに聞こえないように男に呟けば、男は怯えたように動きを止めた。
もしかしたら、AKUMA内では噂になっているのかもしれない。
俺がAKUMAを気分で壊していると言う事を。

もともと、AKUMAはその硬質ボディによって、普通の兵器では壊せない。
壊せるとすればイノセンスと呼ばれる対AKUMA武器のみ。
イノセンスは世界中にも100数個。
貴重な存在であり、適合者がいなければ、発動しないと言う難点がある。
だが、俺は、それを持っている。
勿論、自分が適合者だからだ。



ニッコリと微笑めば、男は怯えながら、頷いた。
そのまま、少し離れて俺の後を追ってくる。
目指すは人の入り込まない路地。
確かに、俺は人間が嫌いだ。
死んでもかまわないとさえ、思っている。
けれど、今の俺が恐れているのはイノセンス適合者の集団『エクソシスト』だ。
あいつらに見つかれば、俺は強制的に連れて行かれるだろう。

エクソシストはAKUMAを壊すための専門集団だ。
黒の教団だかなんだかがAKUMAを如いては人間を守る為に適合者を強引に連れて行くというのは、
陰で大きな噂となっている。
間違いなく、俺もつれていかれるだろう。


何度も言うが、俺は人間が嫌いなのだ。
誰が人間を守る為の組織になど、喜んで入る?答えはNOだ。
だからこそ、教団と敵対してる『ノア』にいる。
あそこは居心地がいい。
少なくとも、あそこに殺したいと思う人間達はいないのだから。



「なんの、御用でしょうか。」
「ん?俺に壊されて?」
「そんな!!」
「大丈夫ダイジョウブ、痛みはあまり与えないようにしてやるさ。俺今ムカついてるから無理かもしんないけど。」


千年伯爵が人間を殺すために作った兵器だが、自分にはどうだって良い。
結局中身は機械だけれど、その外見も魂も人間のものなのだから。
それに、俺がAKUMAを壊したとしても、伯爵は何も言わない。
伯爵は俺を、ノアと同等に扱う。
家族だからこそ、俺のすることに文句など言わないのだろう。
本心を知る術は持ち合わせていないが、なんとなく。
だかこそ、AKUMA達も俺を襲ったりしないし、俺に逆らうこともしない。


「俺の為に、壊されてくれるっしょ?」
冷たいだろう笑みを浮かべ、その手は足のフォルダーに刺さる槌へ。

「あの!!!」
そう声をかけられたのは、槌を発動する一歩手前だった。
まだ幼そうな色合いを含んだテノールの声が、その場に広がる。


「誰だ!!!」
AKUMAの男は勢いよく後ろを振り返る。
「貴方、AKUMAですね?」
少し遠めの曲がり角から荒らされた黒い装束の白い少年。
一瞬で眼を奪われるほど、綺麗な少年。

「エクソシストか!!」
黒い装束の心臓の部分に施された柄。
ローズクロスと称される十字架が、彼がエクソシストなのだと物語っていた。



聞いたことがある。と一人思考をめぐらせる。

エクソシストは、人間に隠れ潜むAKUMAをおびき出すために、
わざとエクソシストだと分かるようにあのローズクロスの団服を着ているのだと。
確かに、あれだけ目立つ団服だ。
そうだと割っていても、AKUMAはエクソシストを見つければ殺したいと願うことだろう。


「貴方に、その人は殺させません。」
少年の言う『その人』とは俺のことなのだろう。
先ほどから何も喋らない俺を、驚いているとでも解釈しているのか。
とにかく、これではイノセンスを発動することはできない。


(にしても、こんな少年までエクソシストやらせるなんてな。)
自分よりも幼いだろう少年。
きっと彼も教団に強制的に連れて行かれたのだ。

AKUMAが人間の皮を剥ぎ、ボディをコンバートしている。
レベル2のAKUMAの姿は初期のボール型ではない。
それぞれが自我を持ち、特殊能力を持つ。
男のそれがなんなのか、俺にはさしたる興味もないのだが。


『哀れなAKUMAに魂の救済を。』
彼はそうつげ、十字を切るようにレベル2のAKUMAを切り裂いた。
イノセンスに壊されると言うことは、拘束された魂は成仏するということになる。
いや、そもそも彼は今、なんと言った?




『哀れなAKUMAに魂の救済を』




彼はエクソシストの中でもかなり浮いた存在なのは無いだろうか。
エクソシストの多くは、AKUMAに恨みを持つ者が大半だ。と言っていた。
彼はそんなAKUMAを救いたいのだといっている。

哀れだと、彼はAKUMAが哀れだと言った。
人間が、自然の摂理に反して、自分の弱さを正当化して造ってしまった無駄な命を。
彼は救いたいのだと。

その心は、まるでモノクロの世界で、たった一つの色が着いた景色のようだった。
彼だけが、自分の中で色づけされるような、そんな感覚。


「ダイジョウブですか?」
驚愕したと思われているのだろう。
少年は恐る恐る顔を覗いてきた。
団服のフードに隠れていた白い髪と灰銀色の瞳。
目元を割るように走っている大きな傷と、ペンタクル。


(こいつ、なにもんだ?)
ペンタクルは呪われた証。
けれど彼はエクソシストでAKUMAではない。
何より彼にAKUMAの気配は感じない。
そして気になることはもう一つ。
何故こいつは、さっきの男がAKUMAだと判別できた?

先ほども言ったように、エクソシストはAKUMAを識別できないからあのコートを着ている。
普通は分からないのだ。
人間とAKUMAの区別など。




「・・・・・・」
「あ、えっと・・・さっきの人、知り合いだったんですか?」
「え、あ・・・いや・・・。」


ここで何事も無かった顔など見せてはいけない。
今することはただ一つ。完全に一般人を装うこと。
先ほど話していた奴が突然化け物にかわり、それを破壊したこの少年に驚くこと。
ばれてはいけないのだ。自分も彼と同じエクソシストの資格を持つものだとは。
自分は何も知らないのだと。
けれど、・・・そうだけれど、なんだろう。
本心は違った。もう少し話していたと思う。






「さっきの・・・何?」
「あれは、AKUMAと言って、・・・人間を殺す兵器です。」
「あれが、AKUMA?」
「AKUMAの存在を知ってるんですか?」
もったいないと思うのだ。ここで終わってしまっては。

「・・親がさ、科学者だとかで・・・。」
「ご両親が?」
「一度も見たこと無いけどな、顔。・・・で、AKUMAに殺されたってのは、知ってる。」
「すみません。」
「なんでアンタが謝んの?」


自分の持つ、知的欲求が訴えるのだ。
この少年が何者なのか知りたいと。
彼はエクソシストだが、どこか違う。

AKUMAを救済する。
その奥に何があるのか。
入れ込むことは法度だと分かっていた。
分かっていても、この欲求は逃れられない。
その欲求が自分を締める大半だからどうしようもない。


「謝んなくて良いさ。どうせ覚えても無い奴らだから。」
「・・・」

「あんた、エクソシストだろ?聞いたことある。」
「ええ、」
「年は?」
ゆっくりと、自分を落ち着かせるように笑顔をみせる。と言う演技をする。

「15歳、くらい。」
「へぇ、俺の3つ下。」
ニッコリと、人好きのする笑みをその表情に纏う。さぁ、かかって来い。


「本当に、大丈夫なんですか?」
「さっきの奴のこと?・・・うん、ちょっと吃驚したけど、その存在知ってるだけマシなんかな?」
「なら、良かった。」
「アンタ名前は?」
「僕ですか?」
「そう。俺、ラビ。」
「アレンです。アレン・ウォーカー。」


アレン・ウォーカー。
少年の名前を脳に刻み込みながら、表面は未だ笑みを貼り付けたままだ。

「アレンは、どうしてエクソシストになったんだ?」
「え・・・」
「だって、アレンみたいなガキがエクソシストやるなんてさ、」
「子供じゃありません!!!」
「そう反応してくるとこがガキなんだって。」
「・・・っ・・・」
挑発すればするほど熱くなるタイプはとても扱い易い。



「僕は、AKUMAを救いたいんです。」
「AKUMAを?」
「変だって思うでしょ?でも、なんと言われようと、僕はAKUMAにされた魂を救いたいんです。」
「・・・なんで、」
「僕には見えるから。」
「・・・・・・見えるって、・・・何が?」
「AKUMAに内蔵された、魂が・・・。」

ああ、だからなのか。先ほどの男をAKUMAだと識別できたのは。
確かに、エクソシストにしたらそれほど便利な物はない。
一般人を間違って殺すこともなくなるだろう。
けど、何故だ?何故AKUMAの魂が見える?

「・・・呪い?」
「・・・・・・はい。」
「あ、いや・・・。」

独り言のように呟いた言葉だった。
それがアレンには聞こえていたのだろう。
悲しそうに、けれど愛おしそうに、額のペンタクルを指でなぞる。




「大切な人だったん?」
「ええ、とても。」
呪いということは、アレンは誰かをAKUMAにしてしまったのではないだろうか。
では誰を?AKUMAを作り出すには、絆の深い人物の魂が必要となる。
つまり、アレンはもっとも絆の不快、大切な人を・・・。



「変なの。」
「何が?」
「このこと、言ったの。貴方で2人目なんです。仲間以外で。」
「知られたくなかったんか?」
「いえ、・・・ただ言い辛くて・・・。」
「・・・・・・」
「ああ、っと・・・そろそろ行かないと。」
「あ、悪ぃ引きとめちまった・・・。」
「良いんです。貴方に怪我がなくて良かった。それじゃあ!!!」


軽い沈黙の後、赤らんだ空を見上げ、いきなりアレンが立ち上がったかと思うと、勢いよく走り出す。




「アレン!!!」
急いで走り去ってしまう前に、俺はアレンを呼んで動きを止めた。
何故止めたのだろうか、と考える前に、俺は指にしていた黒いリングをアレンに向かって投げていた。



「え、これ・・・。」
「やる。また、会えること、願って!!だから貰ってさ。」
「・・・ありがとうございますっ!!!」

そして再会を願う言葉を口にしていた。
全て、自分の意思とは関係なく、だ。
更に、足りないというように、俺は走りアレンの傍に並ぶ。



「・・・ラビ?」
にっこりと、自分でも驚くほど、微笑んで、アレンの唇に、軽く、キスを落とす。

「っ!!!!」
「またな。」
捨て台詞かと思われるような台詞を残し、そのまま走り去る。



「帰り道、迷わないようにな、アレン!!!」
自分自身、どうしてこんな行動をとったのか分からなかった。
そういえば、ティキとロード以外にキスしたの、あいつが始めてだ。と・・・。
理解不能の行動ばかりなのに、その顔はとても嬉しそうに、笑っていた。
また会いたい。と再会を望んでいた。
まるで、新しい興味を手に入れたみたいだ。な、とティキに言われるのはその数十分後。









(また、会おうな、エクソシスト君。)

 

(09.02.15)